「展開図」と「立面図」は、建築設計において混同されがちな図面ですが、実際の用途と目的は大きく異なります。
立面図は建物外観を方位ごとに示し、窓配置や軒高・最高高さ、斜線制限や景観条例との整合など、対外的な説明と審査における核となる図面です。
これに対し展開図は、室内の各壁面を一面ずつ正面視で描き、仕上げ品番やFLからの高さ、造作や電気・設備の取り合いを”ミリ単位”で確定させる施工直結の詳細図として機能します。
本稿では両者の基本定義を整理しながら、法規(高さ・斜線・換気・排煙等)との関係性、BIM/CAD運用の実際、コストや品質への影響、そして現場で迷わないための実務基準まで体系的に解説します。
| 図面種類 | 主な機能 |
| 立面図 | 外観全体/方位別/高さ・斜線・景観など法規・意匠整合の基準図 |
| 展開図 | 室内1壁面ごと/品番・高さ・下地・取り合いなど施工精度の指示図 |
| 使い分けの基本 | 法規・合意は立面図が軸、納まり・使い勝手は展開図が軸 |
展開図とは?

展開図は室内の壁面をA壁・B壁といった具合に一面ずつ正面視で表現する図面です。一般的なスケールは1/20から1/50程度で設定され、ミリ精度での高さや位置決定に対応できる詳細レベルを持ちます。
主な閲覧者は内装設計者、現場監督、造作家具・電気・設備業者など、実際の施工を担当する関係者です。これらの専門工事業者が作業内容を具体的に把握し、精度の高い施工を実現するための指示図書として機能します。
展開図で確定すべき要素
展開図では多岐にわたる詳細事項を確定させます。仕上げ関連では以下の項目が重要です:
- クロス品番・塗装仕様・タイル割りなどの材料指定
- FL基準の高さ寸法(H=表記)
- 巾木・見切り・下地位置の詳細
建具まわりでは見付・見込み・把手・ストッパーの配置が、造作関連では棚・カウンター・ニッチ・逃げ寸法の確保が施工品質を左右します。
さらに電気・設備の端末として、スイッチ・コンセント・情報口・給排気・器具取付高さといった要素が、使い勝手と法規適合の両面で重要な指定事項となります。
併読すべき関連図
展開図は単独で機能するものではありません。
平面図、天井伏図、仕上表、建具表、詳細図(断面)との併読が前提となります。
特に奥行や複雑な取り合いについては、断面・詳細図による補完が不可欠です。
立面図とは?
立面図は建物外観を東西南北などの方位ごとに正面視で示す図面です。
通常1/100から1/200のスケールで設定され、外装構成と高さ関係を俯瞰的に表現します。
主な閲覧者は意匠設計者、施主、行政・審査機関、外装施工業者など、建物の対外的な合意形成と法規制への適合確認を担う関係者です。
設計意図の共有と公的手続きにおける基準図書としての役割を果たします。
立面図で確認できること
立面図で確認すべき要素には、外壁・屋根・庇・手摺・雨樋といった外装構成要素の配置があります。
さらに窓の位置・バランス、GL/FL表記、軒高・最高高さの明示が重要な情報となります。
法規面では斜線制限・高さ制限・景観条例との整合確認が立面図の重要な機能です。
また外構との取り合いや、建築面積・容積率算定における屋根・庇・塔屋・吹抜けの扱いについても、立面図・断面図での確認が必要になる場合があります(突出部や階数の扱いが面積判定に影響するため)。
併読すべき関連図
立面図は配置図、断面図、矩計図、外装ディテールとの併読が基本となります。
特に高さ計算や斜線チェックについては断面図との整合性確認が不可欠です。
展開図と立面図の違い
| 項目 | 展開図 | 立面図 |
| 対象範囲 | 室内壁面(部屋単位) | 外観全体(方位単位) |
| スケール | 1/20~1/50 | 1/100~1/200 |
| 精度レベル | ミリ単位の詳細指示 | 建物スケールの基準値 |
| 主要閲覧者 | 内装設計者・現場監督・専門工事業者 | 意匠設計者・施主・行政・審査機関 |
| 利用フェーズ | 実施設計~施工段階 | 基本設計~申請・合意段階 |
| 目的 | 納まり・高さ・品番の確定 | 法規・意匠の整合 |
法規との関係
建築法規と各図面の関係を体系的に整理すると、以下のような役割分担が明確になります。
法規別の図面活用表
| 法規項目 | 立面図での確認事項 | 展開図での確認事項 | 関連図面 |
| 高さ・斜線制限 | 軒高・最高高さ・GL/FLの整合 | 関与なし | 断面図・配置図 |
| 景観条例・色彩計画 | 外観意匠・色彩の合意形成 | 関与なし | カラープラン |
| 換気・排煙 | 排気フード・グリル位置の管理 | 端末高さ・位置の確定 | 設備図・平面図 |
| 建蔽率・容積率 | 庇突出・塔屋・吹抜け扱いの根拠 | 関与なし | 平面図・求積図 |
| 内装制限・防火仕上げ | 関与なし | 仕上げ材料・品番の指定 | 仕上表・平面図 |
換気・排煙計画では、基本計画を平面・断面・設備図で立案し、展開図で端末高さ・位置を確定、立面図で外観露出位置を管理するという連携が重要です。
開口高さや有効開口に関わる法規要件は、各図面間での数値整合性確保が前提となります。
建蔽率・容積率の算定は平面・求積図が基本ですが、庇の突出寸法や塔屋扱い、吹抜けの容積不算入要件などは立面・断面の情報が判定根拠となるため、図面間の整合性が重要です。
BIM・CAD運用の実務展開
現代の設計実務におけるデジタルツール活用について、実践的な運用方法を解説します。
BIMソフトウェア(Revit、ArchiCAD等)では、室内展開図をモデルから切り出したビューとして生成し、View Template(表示ルール)機能で寸法・タグ表記を統一することが効率化の鍵となります。
立面図についても、高さ・斜線チェック用ビューをルール化することで、設計品質の向上と作業効率の両立が可能です。
干渉検出(Clash Detection)の活用により、展開図上の器具高さ指示をモデル属性と連携させ、電気・設備・造作の取り合い衝突を早期発見できます。
図面管理では、図番・改定履歴・責任分担をBEP(BIM Execution Plan)や図面台帳で明確化することが運用成功の基本です。
2D CAD環境では、展開図テンプレート(寸法・通り芯・タグ配置の標準化)と立面図テンプレート(GL/FL・軒高・最高高さ表示の統一)を事前標準化し、流用効率向上と表記一貫性の担保を図ることが重要です。
コスト・工期・品質への影響分析
図面精度が実際のプロジェクト運営に与える影響は深刻で、特に以下の点で顕著に現れます。
コスト面では、展開図の精度不足(品番未確定・高さ未定義・下地未指示)が発注段階での混乱や施工段階での手戻りを誘発し、直接的なコスト増要因となります。
照明計画や造作の割付不整合は追加工事発生の主要因でもあります。
工期への影響として、立面図での開口部再配置はサッシの製作・納期に直結し、プロジェクト全体の工程に影響します。
展開図の変更は造作製作や電気設備手配のリードタイムに影響するため、変更管理の徹底が重要です。
品質面では、図面照合の不十分さがレベル差・芯ズレ・機器露出といった仕上がり劣化の根本原因となります。
予防策
- 基本設計段階での立面制約(高さ・斜線・窓方針)の早期確定
- 実施設計での展開図高さ基準表と品番リストの明確化
- 施工前ミーティングでの図面間整合会(立面×展開×断面×設備)実施
- モックアップ・サンプルでの色・テクスチャ・グレア確認
ケーススタディ:実務での使い分け判断
外観の窓形状変更プロジェクト
このケースでは立面図が主役となります。外観意匠のバランス調整と高さ制限への適合が最優先事項となり、室内側の対応(窓台高さ・カーテンボックス等)は展開図で追従調整する流れになります。
TV壁面+間接照明+造作設計
こちらは展開図が主導権を握るケースです。器具の設置高さ、配線経路の確保、下地材の指定、タイル割付の詳細をミリ単位で確定させる必要があり、立面図の関与は限定的です。
ファサードサイン新設プロジェクト
立面図でサインの位置・大きさ・景観整合を検討し、屋内側の配線や構造補強が関係する場合にのみ展開図での詳細検討を行います。
よくある誤解・失敗と対処法
実務現場でよく見られる失敗パターンとその対処法を具体的に整理します。
展開図なしで着工 → 口頭決定連発で手戻り発生
- 対処:主要室は必ず展開図化。H寸法・下地・品番を図面に明記
立面だけで窓変更 → 室内の棚・家電と干渉
- 対処:該当室の展開図・平面図・断面を同時更新
外部設備の露出忘れ → 景観・騒音トラブル
- 対処:立面図に室外機・フード・ダクト端末を表記し、外構図で目隠し検討
排煙・換気の高さ不適合 → 申請・検査で指摘
- 対処:平面・断面・設備図の計画値を、展開図(端末高さ)と数値一致させる
庇・塔屋の扱い誤り → 面積判定でやり直し
- 対処:立面・断面で寸法・用途・扱いを注記。求積図と整合させる
チェックリスト
展開図確認項目
- H寸法(FL基準)の完全性
- 品番・割付指示の明確性
- 下地位置の詳細指定
- 器具高さの法規適合
- 逃げ寸法・建具クリアランスの確保
立面図確認項目
- GL/FL・軒高・最高高さの数値整合
- 開口バランスと法規適合
- 庇・樋・外部設備位置の明記
- 色彩・張分け計画の合意状況
- 斜線・景観注記の記載
図面間整合確認
- 展開×平面×天井伏×断面×設備×求積の数値一致
- 改定履歴の全図面共有
- 責任分担の明確化
よくある質問(FAQ)
展開図は建築確認申請に必要ですか?
通常は申請図書として不要です。申請では立面図が必須図書となりますが、内装制限や防火仕上げの確認において、展開図の情報が審査補助資料として求められる場合があります。
建蔽率・容積率と立面図の関係は?
面積算定自体は平面図・求積図で行いますが、階数判定・屋根勾配・庇の突出・塔屋の扱いなど、面積・高さ判定に関わる前提条件は立面図・断面図の情報で担保します。図面間の数値整合が重要です。
換気・排煙のチェックはどの図面で?
計画は平面・断面・設備図で行い、展開図で端末の高さ・位置を確定、立面図で外観露出の位置を確認します。開口の有効面積や高さ条件は法令・自治体基準に従って最終確認が必要です。
BIMがあれば展開図は不要になりますか?
なりません。BIMは理解・干渉検出に有効ですが、寸法・品番・納まりを指示する"契約図書"としての展開図は依然必要です。モデル→図面の表記ルール統一が運用の肝です。
戸建てでも展開図は必要?
リビング・水回り・収納・来客導線など造作や設備が多い室は必須級。数量拾い・見積精度・手戻り削減に直結します。
まとめ
展開図は室内の”高さ・納まり・品番”を詳細に確定させる施工直結の図面であり、立面図は外観の”見え方・法規・意匠”を整理する対外基準図面です。
どちらを判断軸とすべきかは、検討する議題の性質によって決まります。
外観デザインや法規制については立面図が、室内の使い勝手や設備取り合いについては展開図が主導権を握ります。
この使い分けを明確にし、BIM/CADの標準運用と図面間整合システムで結びつけることで、プロジェクトの品質・コスト・工期におけるブレを最小化できます。
現場での迷いを減らし、確実な成果を得るためには、両図面の特性を理解した上での戦略的な活用が不可欠です。










